宝石サンゴといえば、小笠原諸島周辺に、中国漁船が大挙して押し寄せ、
密漁しているとニュースになりました。
その宝石サンゴというのは、どんなものなんでしょう。
サンゴは動物
サンゴは、刺胞(しほう)動物門花虫(かちゅう)綱に属する動物のうち、
固い骨格を発達させるもののことです。
サンゴは、ポリプという管状で触手を広げた、
イソギンチャクみたいな形態をしているもので、
海底の岩などに固着して生活しています。
サンゴ虫と呼ばれているのが、このポリプです。
固い骨格は、炭酸カルシウムが主成分の石灰質で、
ポリプが分裂することで作られます。
サンゴには、サンゴ礁をを作るものや宝石として使われるものなどがあります。
サンゴ礁を作るサンゴは、造礁(ぞうしょう)サンゴと言って、
六放(ろっぽう)サンゴ亜綱イシサンゴ目に属す六放サンゴで、
ポリプの触手は6本です。
サンゴ礁は、造礁サンゴが作った骨格が、
海面近くまで積み重なった地形のことです。
造礁サンゴは、褐虫藻(かっちゅうそう)という藻の仲間が、細胞内に共生していて、
褐虫藻の光合成によって作られる有機物を、栄養としています。
このため、昔、サンゴは植物だと思われていました。
以前、大規模に起こったのでニュースになった、サンゴ礁が白くなる白化現象は、
この褐虫藻を失ってしまったために起こります。
その原因には、海水温の上昇などがあります。
宝石サンゴとは
宝石サンゴとは、八放(はっぽう)サンゴ亜綱ヤギ目サンゴ科に属すサンゴで、
宝石として装飾品に使われるもののことです。
八放サンゴなので、ポリプの触手は8本です。
水深100m以上の深海に生息していて、数百ミクロン程度までの大きさの、
動物プランクトンを、餌として食べています。
宝石サンゴの場合、サンゴ礁は作らず、たくさんのポリプが木の枝みたいな形の
群体を作ります。
群体には雄(おす)と雌(めす)があり、有性生殖によって繁殖します。
また、ポリプは無性生殖で増殖して、骨軸を形成します。
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ギリシャ神話では、英雄ペルセウスが怪物メデューサの首をはねたときに、
地中海にしたたり落ちた血が海草に触れて、その海草がサンゴになったと言われています。
ローマ時代には、宝石サンゴは、魔除けのお守りとして使われていました。
日本へは、奈良時代には伝わっていたようで、胡渡り(こわたり)と呼ばれる
シルクロードを渡ってきた、地中海産が珍重されていました。
胡渡りの「胡」というのは、ペルシャのことで、
胡渡りというのは西から伝わったという意味です。
宝石サンゴの硬さは、モース硬度で3.5です。
モース硬度というのは、ダイヤモンドが10で一番硬い(現在は15)とされている、
宝石の高度の指標で、「あるものでひっかいたときの傷つきにくさ」を表しています。
モース硬度3.5というのは、モース硬度の3と4の間という意味で、
爪では傷はつきませんが、ナイフでは傷がつくぐらいの硬さです。
ちなみに、モース硬度3は方解石、モース硬度4は蛍石です。
宝石サンゴの種類
宝石サンゴと呼ばれるものには、次のようなものがあります。
・アカサンゴ(Paracorallium.japonicum)
日本近海に多く生息しています。
・シロサンゴ(Corallium.konojoi)
南シナ海、日本近海に生息しています。
・モモイロサンゴ(Corallium.elatus)
日本近海、フィリピン、南シナ海、台湾近海に生息しています。
・ベニサンゴ(Corallium rubrum)
地中海に生息しています。
・深海サンゴ(Corallium Secundum)
昭和39年に、ミッドウェー海域で発見され、水深1000mを超える深海に生息しています。
・クロサンゴ(Black Coral)
「ウミカラマツ」「サビカラマツ」「ネジリカラマツ」のことです。
クロサンゴは、造礁サンゴと同じ六放サンゴで、宝石サンゴとは違う種類ですが、
宝飾品として使われています。
ヨーロッパでは、モモイロサンゴが人気で、その中の淡いピンク色のものは、
「エンジェルスキン」と呼ばれ、高く評価されています。
エンジェルスキンというのは、日本では、「ボケサンゴ」とか「本ボケ」と呼ばれている
もののことです。
日本、中国、台湾で最も人気があるのがアカサンゴで、
赤黒い色の「血赤珊瑚(ちあかさんご)」が、最高級品とされています。
血赤珊瑚は、アメリカでは「オックスブラッド」、
ヨーロッパでは「トサ」と呼ばれています。
密漁されている宝石サンゴ
中国や台湾では、赤は縁起がよいとされていて、富裕層に人気があります。
両国の経済発展に伴って、価格は高騰していて、高知県の競りで、
平均単価がキロ52万6千円といった、高値がついたりしています。
こんな高値のつくアカサンゴは、中国国内での採取が禁止されているので、
中国漁船が日本近海まで密漁にくるのです。
宝石サンゴの保護
実は、アカサンゴ、モモイロサンゴ、シロサンゴ、
ミッドサンゴ(ミッドウェーで採れる深海サンゴの一種)の4種は、
中国が提案してワシントン条約附属書Ⅲに掲載されました。
附属書Ⅲに掲載された動植物は、あるワシントン条約締約国(この場合は中国)が、
自国の資源保護のために、他の締約国へも協力を求めるものになります。
それら動植物の国際輸出の際には、輸出国管理当局発行の輸出許可証
または原産地証明書が必要となっています。
このように宝石サンゴが、ワシントン条約で規制されるのは、乱獲が原因で、
絶滅の恐れがあると言うことなんですが、中国が提案しているなんて驚きですね。
サンゴは成長が遅く、年間0.15mm程度しか成長しません。
種類によっては、1cm成長するのに、約50年かかったりします。
これほどサンゴの成長は遅いので、資源保護のためには、
ある区域で一定量採取した後、10年は休漁期間を設けるべきだ、
と主張する専門家もいるほどです。
日本では、すでに宝石サンゴ保護の取り組みが行われています。
採取には地方自治体の許可が必要で、しかも操業区域、操業期間、漁法に制限があります。
宝石サンゴ組合下では、一定の大きさ以上でなければ採取しないという、
自主規制もされています。
ここ数年、魚の値段が下がって、魚を捕っていても生活できないと言うことで、
宝石サンゴ漁に転換する漁師も増えています。
資源保護と漁業の維持という問題、解決に向けて個人個人で何ができるのかを、
考えないといけませんね。